すしを握ることを「習おう」と決めた瞬間に陥る怖いスパイラル


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東京日本橋のおか吉で立ち喰い寿司や寿司居酒屋を運営しながら

若いすし職人の育成に努めています。

すし学校を卒業した諸君も5~6人います。
私は学校で生徒を教えていた時から
「現場感」を最も重要な軸として指導していました。

「現場感」とは一言でいえば「厳しさ」です。

最近は段々と優しく、ある意味ゆるくなってきてはいるけど
洋の東西、ジャンルを問わず、食を志す若者の多くは
今なお実際に店舗に入って下働きをしながら
一つ一つ覚えていっています

周りにいるのは、経営者(オーナーシェフ)、店長、先輩、お客様など
頭の上がらない人たちばかりです。

自ずと緊張感が身につき、自分より周りの人をよく見るようになっていきます。
精神的にも鍛えられる環境がそこにはあります。

サービスを生業にするなら
「自分は」が真っ先に出てくる思考回路を持っている人は大きなハンデを持っていると自覚していいでしょう。

主役は「自分」ではなく、お客様であり
全てはお客様が下す評価が基準となります。
評価とはつまり「もう一度来店してもらえるのか」です。

この辺の感覚というか空気感を
学校の教室で作ることを常に考えていました。

例えば現場に立って仕事をするようになると

「自分なりに」ベストを尽くして
徹夜をして作り上げた料理でも
お客様が「ダメ」と言えばダメなのです。

「自分なりに」精一杯神経をつかっていても
お客様が「気が利かない店だな」と感じたら
それがその人の評価なのです。

「自分なりにどれぐらい頑張っているか」は何の意味もないのです。
これが「現場の厳しさ」です。

すし学校に在学中でも卒業後でも
ここに気づいて
自分なりに覚悟を決めることができればまずは良しです。

でもそこに気持ちが入らずに
「その店にバイトにはいれば色々教えてくれる」と思っている人には
現場は冷たく、辛いところでしかなくなってしまいます。
それが顔に出ると「これだから学校出は甘い」などと言われてしまい・・・。

このスパイラルが怖いと思うのです。

店側は売上げの増大、利益のアップを狙い
本人は自分を構ってくれと思っている。。

最後には
「ここでは成長できない」なんて去っていく。
甘いです。

はっきり言うけどさ
寿司を含め料理の技術を身につけるなら
独学だって相当高いところまで行けるでしょ。
ネットと本で情報集めて食材を買い
自分で作ってみて、お手本を求めて食べに行く。
コレの繰り返しだけだってかなりの実力はつくってもんだ。
自分の努力不足を棚に上げて
「教えてもらう」なんて要求を持ち続けてるのは甘いんです。

実はこれ、飲食に限ったことではないのです。
飲食は体力を使う、もともとキツイ仕事です。
そこにこういった要素が入ってくるので特に厳しい世界のように思われるんだけど
新人が自分の責任をこなしながら先輩の仕事を盗んだり
外部のセミナーでスキルアップをねらったりって
サラリーマンの世界だって当たり前のことですね。
どんな職種だってフツーのこと。

飲食だろうとそうでなかろうと
これが出来ない奴は落ちこぼれるだけの話しです。

飲食はアルバイトの比重が高く、何かあるとすぐに辞める人も多いです
辞められるとめんどくさいから、何となくご機嫌をとってくれる店舗も多いですね
だから仕事をナメてる人も出てきちゃう。
努力もしないダメダメスタッフなのに、なんとなく褒められちゃったり。。
笑っちゃいます。

「良い所を認めて、褒めてあげる」のが人を動かすのに有効なのは
ほぼ証明されているけど
もともと仕事をなめてかかってる人に
もっと甘いこと言うモンだからどんどんおかしくなっちゃうわけ

「店舗はキミの成長のためにあるのではない。」

当たり前ですね。

お客様は一生懸命働いたお金で食事をされるのだし
店舗は利益を出さなければならないですから。

「すし」を「習って」海外に、という感覚で入学してくる生徒たちに
入学式の祝辞を述べる代わりに私が伝えていたのは

「ここに来て規定通りにカリキュラムをこなしていれば、自動的に海外で生活できると思ったら大きな間違いだ。何もできないヒヨッコが1年間教室で技術を習っただけで稼げるような、甘い世界ではない。なめた奴は周りの迷惑になるだけだから去ってもらう。」

ということでした。
一瞬にして会場は凍りつきます。
ワクワクしている諸君に冷や水をかけるようなものですからね。
少々気の毒だとも思っていましたが
私の感じている危機感を効果的に伝えるにはそのタイミングが一番だと思っていたのです。

通常の授業でもこのことは常に私の指導の柱でした。
返事とあいさつ、受け答え、トイレや下水掃除、なんでも素早く、明るく・・・。
ここさえしっかりしていれば、アルバイトに入った店で先輩に可愛がられ
たとえ少々不器用でも
結果的にどんどん成長して行けるのを知っているからです。

ただ、一旦刷り込まれた感覚を塗りなおすのは本当に難しいです。
最初は緊張していても、徐々に惰性が顔をもたげ
教室の厳しさは失われていきます。

卒業して店舗に入ってもなお
「教えてもらう」という感覚が抜けない人も多いのです。
こう言う人間に限って、家には料理の本一冊さえなかったりします。

実際の店舗は教室とは違います。
スタッフの成長よりお客様、スタッフの自己実現より利益。
良い悪いではなく、これが偽らざる現場の空気、現実なのです。
そのなかで嗅覚鋭く、工夫しながら、全てを吸収していく逞しさが必要なのです。

その意識があって初めて「習う」ということに意味が生じると思っています。

「天は自ら助く者を助く」といいますね。

すしを携えて海外に出てよかったと思うために
今は焦らずに精進してほしい物です。

がんばれ。