「一番いい魚」は自分の店に見合う価格帯の範疇で見つけてこそ意味がある

すし職人になろうと決めて修業に入ると魚のことを強烈に勉強します。

このブログの読者の中にはそう聞いて懐かしく思い出す職人さんや

今まさに勉強中の方もいるでしょう。頑張ってほしいものです。

さて、魚の勉強というと包丁仕事ばかりのように思うかもしれませんが

先ずは魚の名前を覚えなくてはなりません。

次に産地、旬の季節、さばき方、どのような寿司にするか、生食以外の調理法、鮮度の見分け方、保存方法などです。

これらすべてをひっくるめて「サカナの顔」と言ったりもします。

始めのうちは単純に「これとこれ、どっちが新鮮か」を見分けるのが精いっぱいです。

それが分かるようになると「俺って行けてるかも」なんて思ったりもします。

勿論、鮮度が分からずに古い魚を掴まされるより、新しいものを見分けられる方がスキルは上と言っていいでしょう。

ただし実践で本当に要求される実力はもっと上で、今日のタイトル

「一番いい魚」は自分の店に見合う価格帯の中で見つけてこそ意味があるということになります。

魚の値段を固定するのは不可能に近い

魚の世界は一種バクチに似た要素があって、同じ品質の魚でもその日に入荷した量や買い手の数によって価格は変わります。

全く同じ魚を二日連続で買っても昨日と今日では値段が3割も違う、なんてことはザラにあることです。

ですから仕入れ担当者は朝河岸に行ったらまず仲卸と話したり、場内を見て回ったりして大まかな状況を掴んでから仕入れに取りかかるわけです。

 

 最高と最低は取りあえず脇に置いておこう

このブログは現在すし店を経営している方とそれを目指す方、そうでなくてもすし屋の中身に興味がある方向けに書いています。

そしておそらく銀座の超一流のすし店にいる職人さんには関わり合いのない内容で進行します。

だからキロ25,000円の鯛や平目の仕入れは対象にしていません。

一応お客様に生でお出しする食材ですので生食不可の魚も対象外。

「中間を見分けてなんぼ」と言っているのはそういうことです。

「「〇〇しんぼ」や「〇太の寿司」に出てくる究極のなんチャラを鵜呑みにしても実戦じゃ役にたたねーぞ」

っていう、若い世代への警鐘の意味も込めてます。

 自分の店にくるお客様の期待を裏切ってはならない

すし屋、と一言で言ってもその立ち位置は本当に様々です。

一つの基準になるのはプライスライン(価格帯)です。

多くのお客様は「飲んで食べて大体いくらくらい」というイメージを持って来店します。

普段、鯛(たい)1貫150円で売っているすし店で

「今日の鯛はモノがいいので1貫400円です」

と急に言われても困ってしまうでしょう。

逆に、普段、鯛1貫400円で売っている店で

「今日の鯛はちょっと古いから半額でいい」

なんて言われてもガッカリするだけです。安くしてほしいのではなく、いつもの美味しいお寿司が食べたいのです。

売る側はこの「お客様の期待値」を裏切らないように最大の配慮をしなければならず、これを継続し続けることが商売繁盛の鉄則となります。

上であろうと下であろうとブレは最小限でなければなりません。

ブレをなくせ、と言わないのは、私も自分でやってきて、ブレをなくすことはほぼ不可能だと知っているからです。

やろうと思うとずっと超上物を買い続けるか、冷凍の真空パックを使うことになるでしょう。それでもブレは出るけどね。

 

例を2つあげましょう。

例1)

A店のAさんが市場で鯛を買おうとしています。A店では鯛1貫400円で売っています。まずまず売れてますが従業員の給料日には資金繰りが苦しくなります。常連さんに支えてもらってますが経営が楽とは言えません。

「ネタには自信がある、産地と旬にこだわっている」が店の売り文句で、常連客はこの店のネタの良さを褒めてくれます。Aさんは魚の目利きには絶対の自信を持っています。今日も上質の鯛を探し回り、鮮度、脂ののりなど申し分ない2枚の鯛に絞り込みました。値段はそれぞれキロ6500円とキロ8500円です。どちらも十分にいいのですが8500円の方が若干上のようみ見えます。

Aさんは「少し高いけど妥協したくないから8500円の方でいこう」

と決めました。店に持って帰っておろしてみると最高の鯛でした。Aさんも大満足です。

 

例2)

B店は鯛1貫150円で売っている比較的大衆路線のすし店です。店は比較的好調、店主のBさんは「どこも苦戦してるみたいだからウチは良い方だな」と思っています。が、最近売上げ、客数ともに徐々に落ちてきました。売りにしている刺身の売れ行きも落ちてきています。

Bさんも市場に鯛を買いに来ました。Bさんも仕入れには自信を持っています。今日も市場内を探し回り3本にしぼりこみました。それぞれキロ1500円、キロ900円、キロ700円です。キロ1500円のは比較的鮮度が良さそう。他の2枚は鮮度が悪いが生食は辛うじて大丈夫そう。

「最近苦しいしウチは大衆店だからな、安い方でいくか」

今までも資金繰りが苦しいときはこうやって仕入れで調整してきたBさんは700円の鯛を買いました。

 

さてどうでしょう。

最初に明かしてしまいますが、これだけの情報では良い悪いの判断はできません。

現実はもっと複雑(予約状況、在庫、他の白身との兼ね合い、休日との兼ね合い、翌日の価格予想などなど)

2人とも自分の店の立ち位置を念頭に一生懸命考えて仕入れしていますね。

それにどちらも一理ありそうです。

 この2つの例を出した理由は二つ

①「こんな感じで考えながら仕入れしてくださいよ」という若い職人さんへのメッセージを伝えるため。

②「惜しいけどそれじゃちょっと浅くないかい」という中堅派への問題提起のため。

です。

①については説明は不要でしょう。

②についてです。

AさんもBさんも値段で決めています。

Aさんは値段が高い方を、Bさんは値段が安い方を買ったのでした。

仕入れで大切なのは折り合いといバランス感覚です。

2人の店は売価が決まっています。と言うことは原価もある程度決まっているわけです。

仮に2店とも鯛のにぎりの原価率を35%と決めていたら

買う魚のキロ単価は

A店 4000円

B店 1500円

が上限です。

(※鯛の歩留り40%、切りつけの重さ14g、簡素化のためシャリ他の原価含まず。)

 

A店の場合は安い方の魚でも原価をオーバーしています。

B店の場合、高い方の魚でも想定原価率で収まっています。

ここのところを二人が分かっていたかをぜひ知りたいですね。

 

どちらも架空の人物なので一方的にバシッと決めつけてみます。

「Aさんはお客様のことを考えているつもりで実は自己満足なだけ。仮にいつもこんな感じで仕入れしてたらそりゃ経営は苦しいよな。」

「Bさんははお金のことを考えるあまりお客様の満足を忘れています。お客さまが減ってるのは美味しくない魚を使ってるかもしれませんね。」

です。

 

まとめ

「鮮度の良し悪しを見分けるのが目利きだ」と思っている人が多いですが、商売にマッチした魚を見抜くのが本当の目利きです。

選択の条件は本当に様々、「お客様の期待を裏切らず、なおかつ利益の出る仕入れ」をできるようになろう。

 

ということでした。

 

文中の原価の計算式はコチラで説明しときます。

歩留りってなんぞや?な方はコチラにおこしください。

 

ある程度魚の歩留りを覚えておかないと計算ができないので

このページに書きだしておきます。

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